1. 発見・化学名 ビタミンB6は,1934年,イギリス人科学者によって,ネズミのペラグラ様皮膚炎の予防因子としてビタミンB2複合体中にその存在が指摘されました。その後,酵母,米ヌカなどから抽出され,1938年には,世界の5カ所の研究者らがほとんど同時に,ビタミンB6の結晶化に成功したことを発表しました。日本の理化学研究所の市場・道の報告もその中の1つです。翌1939年には,Kuhnおよびによって,結晶化したB6化合物の化学構造が3-ヒドロキシ-4,5-ビス(ヒドロキシメチル)-2-メチルピリジンであると決定されました。この化合物をピリドキシン(pyridoxine;PN)と呼ぶことを提唱しました。また,Kuhnはこの化合物が皮膚炎の予防因子であるという意味からアデルミン(adermin)と命名しましたが,この名称は現在では使われていません。 その後,アメリカのSnellらによる微生物増殖因子に関する研究に始まり,ビタミンB6活性を有する化合物がピリドキシン以外に複数存在することが明らかになりました。そして今日では,ピリドキシン,ピリドキサール(pyridoxal;PL),ピリドキサミン(pyridoxamine;PM)とそれらの5’位でのリン酸エステル型を加えた6種類がビタミンB6化合物として認められています。 2. 欠乏症 成長の停止,体重減少,てんかん様痙攣などが外見的に見られるビタミンB6欠乏症です。その他,動脈硬化性血管障害,筋肉の緊張低下,貧血,脂肪肝等が報告されています。これらの症状の多くは生活習慣病として知られている病気の際に観察されるものです。また,ネズミでは胸腺萎縮,抗体産生の低下,ニワトリの場合,産卵停止など,ヒトでは皮膚炎,口唇炎,舌炎,神経炎,食欲不振等が記録されています。 ビタミンB6欠乏時の代謝上の変化としては,ビタミンの血中濃度の減少,トリプトファンの代謝中間体であるキサンツレン酸の尿中排泄量の増加,メチオニンの代謝中間体であるホモシステインの尿中排泄の増加などが知られており,これらは臨床診断の方法として使われています。 3. 生化学と生理作用 ビタミンB6の生理作用は,ピリドキサール5′-リン酸(pyridoxal 5’-phosphate;PLP)およびピリドキサミン5′-リン酸(pyridoxamine 5’-phosphate;PMP)の形で100種類以上の酵素の補酵素として機能することです。いわゆるB6-依存性酵素の触媒する反応は,アミノ酸の相互転換やアミノ酸のエネルギー源としての供給に関与する各種アミノ基転移反応,セロトニン,ドーパミン,アドレナリン,ヒスタミン等の,生理活性アミンの合成に関与する脱炭酸反応,セリン,トレオニン代謝における脱水反応,リプトファンおよびメチオニンの代謝(α,β-脱離反応,α,γ‐脱離反応),ラセミ化反応,縮合反応など多岐にわたります。グリコーゲンを分解して絶食時に血糖を供給するグリコーゲンホスホリラーゼの補欠分子族であります。 その他,近年になってPLPが遊離の形で,遺伝子発現の調節に関与する事実が発見され免疫応答をはじめ発がん予防,抗酸化作用,心臓病予防作用,グリケーション抑制作用など多くの新規機能が報告され,研究成果が蓄積されてきています。 4. 食事摂取基準と多く含む食品 ビタミンB6の推定平均必要量は,血漿中のB6補酵素型であるPLPの濃度から算定されています。ピリドキシン相当量として,推定平均必要量は0.019mg/gたんぱく質,推奨量は0.023mg/gたんぱく質(推定平均必要量×1.2)と決められています。1日当たりの量に換算するには,たんぱく質の食事摂取基準の推奨量を乗じて計算します。たとえば,18〜29歳の男性および女性での推奨量は,それぞれ1.4mg/日および1.1mg/日です。 ビタミンB6は,動物性食品にも植物性食品にも広く存在しますが,植物性食品の多くに含まれるピリドキシンの糖誘導体は,生体利用率が低いことが判明しているので動物性食品からの供給が効果的です。 ビタミンB6を多く含む食品としては,日本食品標準成分表によると,ニンニク・りん茎(生),ピスタチオ,ヒマワリの種子,各種マグロ(生),ウシ肝臓,トリささみ肉(生),アマ海苔(干し海苔),ウシ肝臓などが挙げられます。